ファントム・スレッド

2017 米

 

ポール・トーマス・アンダーソン監督。

とはいえ不勉強でこれまで全く見たことがない。

 

この映画、以前映画評で見た際に

「恐ろしい話」というニュアンスで紹介されていました。

 

ところがラブロマンスというシールが貼ってあるし、

見始めると確かにそういう感じみたいだし、どういうことなのか・・・

 

だんだんわかってきましたね。

主人公レイノルズは、母親を追慕する完璧主義で神経質、我儘な男。

女は自分のドレスの引き立て役にすぎないが、

意識せずとも、母の代わりを探している。

 

朴訥な感じもするアルマは田舎のホテルでウェイトレスをやっている。

華やかな世界に連れてこられ彼のいいなりに従うも、不満が募り始める。

ある日、ペースを乱されることを極端に嫌うレイノルズに対し、

サプライズを企画する。

 

これまでそんな女は追い出していたレイノルズ。

ところが今回は踏みとどまる。

やはり「完璧なモデル」としてのアルマに未練があったのでしょうか・・・。

 

またいつも寄り添う姉の存在がなかなか味を出している。

弟のことを全て把握し、いつか母の代わりが現れないか、と願っているのではないか。

そんな感じがしました。

 

ともあれ、そのあたりから流れが変わり始める。

主導権を取るべく画策するアルマは、

疲れている時の彼が無邪気に甘え、優しい態度を取ることに目を付け、

毒キノコを摂取させる。案の定、レイノルズは体調を崩し、ほくそ笑む彼女。

 

一方、レイノルズにとっても、無力に陥り看護されることは快感であり、

アルマの中に失われた母性を見て取るのであった。

 

その後倒錯した関係はどんどん進んで行き、

前は粉末だった毒キノコをぶつ切り、

しかも彼の嫌いなバターでこってり味付けして供するところまで彼女の主権が強まる。

そしてそれを喜んで受け入れるレイノルズと、

「死ぬことは多分ないわよ」と怪しく笑うアルマ。

もはや、自分の世界を乱された、と文句を言うなど考えられない。

 

凄いことになりましたね。

 

自分の世界を相手にも差し出さないと、

結婚は成り立たないんだろうけど、ここまでは・・・。

ということで冒頭に戻ってよくわかりました。

 

そんな二人の関係をずっと見守っている姉も凄いなと思いますが。

何もかも分かったうえでなんじゃないのか?

いや、これはこれで恐ろしいね。姉弟愛なのかな。。

 

3月のライオン 後編

2017 日

 

前篇同様駆け足ではあるが、

後篇の方がうまく話が展開していて良かったと思う。

 

幸田家に結構スポットが当たっていましたね。

零のトラウマの多くはここにあるのだから、妥当なところと言える。

一方、川本家の父親の方はどうしようもない人という設定らしいけど、

映画版の描写としてはそこまででもなかったな。

家族のドラマとしては共にわりと良かった。

 

そして最後、タイトル挑戦するというのは

オリジナル脚本らしいが終わり方もなかなか。

 

一点、後藤との決勝は大逆転らしいんだけど、

零が終盤頭を叩いてから映し出される手順は必然の流れにしか見えなかった。

(あれで勝ちなら元から桐山勝ちということ。)

そんなことを突っ込むのはマニア向けすぎるだろうか。

 

どんどんブレイクしそうな清原果耶ちゃんは、

なんとなく芯の強い子に向いている気がする。

ワタリドリのMVでも雰囲気出ていた。

 

3月のライオン 前篇

2017 日

 

人気将棋マンガの映画化。

 

家族を失った天才高校生棋士、桐山零。

引き取られた家庭での複雑な生い立ちから現在一人暮らし。

心を閉ざし孤独に生きてきた彼が、

出会った3姉妹との交流の中で人間らしさ?を取り戻していくといったお話、

 

のはず。

 

原作は絶賛刊行中!

ながら、まだ7巻くらいまでしか読んでいない。。。

まあ、自分の場合、映画の原作コミックを読んだことがある、

というだけでも珍しいのだけれど。

 

前篇だけで2時間半近いので驚いたが、

原作のエピソードをわりと忠実に再現していた印象。

その分力が入っているところなどもないので、

大きな山場もないのが難点と言えば難点か。

 

原作の独特のほのぼの感を再現するのはさすがに厳しかったようだ。

 

悪い作品というわけではないので、

興味のある方は見てみるといいのではないだろうか。

 

クーリンチェ少年殺人事件

1991 台湾

 

以前、名前だけちらっと見たことがあった作品。

長い間、権利関係でDVD化できなかったものの、

この度デジタルリマスターされたとのこと。

 

この作品では一部の字幕を除いてほとんど状況説明のシーンはない。

 

そして、舞台は1960年頃の台湾ということで、

このあたりに全く予備知識がないとわかりづらいと思う。

 

日清戦争後~第二次世界大戦まで日本の植民地であったこと、

第二次大戦後の国共内戦で破れた国民党が台湾に離脱したこと。

 

このあたりは基本的な世界史知識でもあるし、

常識的に知っていた、という人も多いだろう。

 

自分も、台湾にずっと住んでいた人たちと

上記の移住してきた人たちに(外省人内省人だったっけ)

軋轢があったことは知っていたし、

1960年ではまだ移住したばかりで、

本土に戻りたい人がいるであろうことは理解できたが、

国民党が思想統制をしていたことは知らなかった。

考えてみれば今よりもさらに緊張関係にあったはずなので

当たり前と言えば当たり前なのだが・・・

 

映画の舞台となる国立の中学校も非常に管理主義で強権的である。

 

そうした複雑な社会背景の下、上手く生きていけない人たちが出てくる。

この映画はそうした人たちについての物語である。

 

日本では日米安保反対に向かった若者のエネルギーが、

事情の異なる台湾では不良集団を作り上げたということだろうか。

 

こうした類似例としては、

バブルの異常な金銭信仰への反発の一つとしてのオウムであり、

スマホ時代の表面的な人間関係のはけ口が渋谷のハロウィーンなのかなとも思った。

 

前置きが長くなった。

根は真面目ではあるのだけど結構羽目を外す主人公の小四。

不良集団に所属しているわけではなさそうだが、

チンピラに「テストの解答教えろよ」などと言われたり、

もともと完全に部外者ではいられない環境。

 

そして、しばらくたってから登場するヒロインの小明

この子が不良集団のボスの女であることが

小四の周りにトラブルを引き起こしていく。

 

このあたりの人間関係が複雑で、

初見ではあまりわかっていないところもあった。

「対立組織と手を結ぶことがなぜ裏切りなのか」とか。

 

その後色々あってボスは死んでしまい、

よくある映画であれば主人公はヒロインと結ばれてめでたしめでたし、

となるのであるが、そうは問屋が卸さない。

 

なかなか社会背景をうまく反映させていますね。

この辺が傑作と言われる所以なんだろうな。

 

ちょっとこの後はかなりネタバレになってしまうので一応分けておきます。

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