偽りなき者
2012 デンマーク
原題は狩りという意味のデンマーク語。
英題は「The Hunt」
以下ほぼ完全にネタバレです。
デンマークの田舎町。
幼稚園で働くルーカス。
離婚したばかりだが、職場では子供に慕われ、
昔からの仲間とシカ猟をしたりとそれなりに幸福な日々を送っていた。
ルーカスの幼馴染テオ。
「お前は嘘つくとき目が定まらないからすぐわかる」
くらいの親友。
テオの娘クララ。
両親は彼女のことをあまり構っていないように見える。
(テオは事あるごとに「お前は部屋に行け」と追い出す)
そのせいか「線が踏めない」ため、自宅にたどり着けなかったりするという
精神的な問題を抱える繊細な子。
両親にあまり相手にされないので、クララは皆に優しいルーカスが大好き。
ある日、ルーカスにハート形の贈り物をし、唇にキスをして恋心を伝えたのだが、
「こういうものは男の子にあげなさい」「もう唇にキスしてはいけないよ」
と、そっけなく(ルーカスにそのつもりはないのだが)あしらわれてしまう。
傷ついた彼女は、「ルーカスなんて大嫌い」と延長に告げ、
前日兄の悪友がポルノを見せびらかした後に発した
卑猥な言葉を真似してしまう。
曰く、「ルーカスが立ったオ○ンチンを見せてきた」。
子供が嘘を言うわけないと盲目的に信じる園長
(それでよく幼稚園やってるとは思うが)
及び、露骨すぎる誘導尋問を連発する専門家の手により、
(法廷なら異議出されまくりなことは確実)
ルーカスに変態の烙印が押されてしまう。
親友のテオも言い分を聞かず絶縁。
離婚した妻の元にいる息子と数少ない友人だけが味方だが、
残りは町全体が彼の敵に。
警察が取り調べるものの、
他の園児の証言も所詮妄想なので矛盾したものも多い。
逮捕まではいってしまったがすぐに釈放される。
しかし無罪放免となっても
烙印の押されたルーカスを田舎町は許してくれない。
相変わらず何を言っても信じてもらえないどころか、
嫌がらせはどんどんエスカレートしていき、
犯罪行為ですら躊躇なく行われていく。
クリスマスのミサでマーカスはテオに詰め寄る。
「俺の目を見てみろ、どうだ!」
心が揺らぐテオ。
その夜、テオはルーカスと和解するのだった。
一年が過ぎ、ルーカスの息子が猟銃を持てる年になった。
大人の仲間入りということで皆が集まり、
(保守的な町なので、銃を持ちシカ猟をすることで
成人の男と認められるようです。)
一応和解を果たしたかのようにも見えた。
しかし最後に襲う衝撃。
人の心の恐ろしさというものがよくわかるラストシーンとなっている。
「狩られる」立場となり、酷い目にあってもじっと耐える、
芯のある男を演じるマッツ=ミケルセンは良かったです。
人気があるらしいのが分かる。
さて、この映画に言及される方がよく触れているのは
「それでもボクはやってない」。
性犯罪等において被害者が嘘を言うわけがない、との前提に基づき、
有力な証拠がなくても有罪となるため
事実上被告人に悪魔の証明が科せられる点
日本の刑事司法の異常さを描いた作品ですが、
本作は司法の関与は僅かで、感情による恐ろしさをテーマにしています。
「子供が嘘を言うわけがない」 という思い込みが原点なわけですが、
一度思い込んでしまうと、あとで娘が証言を訂正しようと、
理屈をつけて自らの思い込みを正当化してしまう。
被害者でもないくせにルーカスを殴り、入店拒否し、嫌がらせをする住人達。
それが正義の執行だとでも思い込み、罪悪感もない。
クララの証言の他には何の事実も兆候もないにも関わらず、
当初から犯人と決め付けて誘導尋問で既成事実化し、
他の園児に頭痛や不眠があれば「それは虐待の影響だ」とこじつけ、
思い込んだイメージに合うよう勝手に被害を増やす。
思い込みを否定することは自己否定につながるので
凡人にはどんどんエスカレートするほか行きつく先はないのであった。
さて、本線のテーマからは外れるかもしれないが、
幼少時から女を発揮する娘のしたたかさ、
恐ろしさが母親目線からコミカルに描かれているが、まさにこれだなーと思った。
クララは意図してルーカスを陥れたものではないが、むしろそれだけに恐ろしい。
「ルーカスに贈り物を受け取ってもらえなかった」と
単純に不満を述べるのではなく、
効果的な意趣返しの手法がすでに身についているのだ。
常に寛容で子供に優しく、忍耐強いルーカスが地獄を見る羽目になった理由は
あの一度だけ彼女の気持ちに寄り添わず、大人目線で対処してしまったから。
「それでも~」で描かれた痴漢冤罪も日常で起こりうるものと言えますが、
子供相手の冤罪もリアリティを持つな、と思わされました。