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ボビー・フィッシャーを探して

 

1993 米

 

ノンフィクションの映画化。

 

ボビー・フィッシャーは1972年、

アメリカ人初のチェス世界チャンピオンに輝いた伝説的選手。

チェスの天才である一方、奇抜な言動でも知られる。

 

タイトルになってはいるものの本作では直接登場せず。

 

野球好きの7歳の少年ジョシュ。

ある日公園で見かけた賭けチェスに魅かれ、

チェスに興味を持つ。

 

めきめきと腕を上げるジョシュ。

父親は入れ込み始め、往年の名選手ブルースにコーチを頼む。

 

ブルースは、ジョシュにボビー・フィッシャーに通じる素質を見出し、

熱心に指導を始める。

しかし期待が大きいがゆえに自分流の完璧な指導を試み

ジョシュの個性への視点が足りなかった。

楽しみにしている公園の早指しチェス(2分切れ負け等と思われる)も

指し手が雑になり悪い影響を与えるので辞めさせようとする。

 

父親の熱もかなり上がり、自分にはない栄光を掴ませようと、

チェスの名門に転校させようとしたりする。

 

チェスは面白くて好きなものの、そんな周囲に戸惑うジョシュ。

彼は優しい性格であり、相手を打ち負かし、大会で優勝するなど

白黒つけずとも楽しくチェスが指せればよし。

 

また、野球等のスポーツ、他のおもちゃにも興味ある。

二人の期待とは裏腹に、

ストイックにチェスの特訓ばかりやりたいというわけでもない。

 

その点理解を示し、入れ込む二人を抑える役回りの母親、

公園のチェス仲間、4歳からチェス一筋のライバル少年などが登場する。

 

ジョシュは優しいいい子で、野球でも活躍。

 

ボードゲームの天才かつスポーツも、というタイプはまず滅多にいないはずで

強いて言えばそこがちょっとあれだけど、

周囲の人も悪人は誰も登場せず、心温まる話で見てよかった。

 

以下、ラストへのネタバレ有

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラストで、勝ちがはっきり見えながらあえて引き分けを提案するジョシュ。

 

「もう君の負けだよ、わかるでしょ?同率優勝にしよう」

 

一見、相手に配慮する彼の優しい性格からの素晴らしいエピソード。

 

しかしこんな酷なことはない。

「弱いね」「相手にならないね」とか、

罵倒されたほうが遥かにまし。

見ていて辛くなった。

 

自分が負けると辛い。だからできることなら相手にも辛い思いをさせたくない。

そのためにはわざと負けることも考えるし、別に勝たなくたっていい。

勝敗は重要なことではないんだ。というスタンスのジョシュ。

 

一方、相手のライバル少年は

4歳から他のことに興味はなく専属コーチの下でチェス一筋。

チェスは負ければ辛いゲームだととっくに受け入れたうえで、

だからこそなんとしても勝ちたい。

真剣に取り組んでいるが故に勝敗は絶対。

自分を全否定するような提案を当然受け入れられるわけがない。

 

まして、彼は知らないがジョシュは大会前2週間も

完全にチェスから離れていたのに勝ってしまったのだ。

 

このあたり、どうしても埋められない才能の差をも暗示しており

敗者に向けられた温情も、思いやっているつもりが逆効果という形。

そこに悪気のないところが残酷である。

 

こういうはっきり白黒つく世界にはつきものの、

酷な一面も見せた映画だなと思った。

(ジョシュを称えるため入室してくる子供たちの波を、

 かき分けながら去る敗者の構図の切なさと美しさ)