野いちご

1957 スウェーデン

 

なかなか手が伸びなかったベルイマン作品。

本作は比較的温かなロードムービーでわりと観やすいらしい。

 

ベルイマン最初に見るならコレ!」

というポップに勇気づけられレンタル。

 

老人医師イサクの独白から始まるこの映画。

その内容から一瞬でこの人物が孤独であることがわかる。

それに続く印象的な夢。老年を迎えた死の恐怖。

 

経済的には裕福なうえ、地位も名誉も得た安定の老後。

 

一方で妻とは死別、息子からも距離を置かれている模様。

冒頭の独白通り、友人は皆無。

心を許せるのは数十年一緒にいる家政婦のみ。

 

名誉学位の授与式に向かう道中、

同行する息子の妻や、道連れとなった若者たちに接する中で

イサクの回想が始まるのだった・・・

 

・息子の妻が別居して義父の下に来たのは妊娠したから

 両親の不仲にトラウマのある息子は、「絶対に子供は不要だ」という。

 「私を巻き込むな」と拒絶するイサク。

 「冷たいというより哀れな人ね」

 

・(回想)いとこの少女と婚約しているイサク。

 真面目だが物足りない彼から、軽いが情熱的な男になびく少女。

 彼らの幸せそうな様子を覗き見るイサク。

 

・(回想)森で男と逢引し、情熱的に交わる妻。

 それを覗き見るも何も言えないイサク。

 

・事故を起こしイサクの車に同乗してきた夫妻。

 口汚く妻をののしる夫。

 聞くに堪えない諍いについに彼らを放り出す。

 

・天真爛漫イサクを好いてくれる少女(回想の婚約者と2役)

 信仰について論争する二人のボーフレンド。

「あなたっていい人ね」「どっちを選んだらいいと思う?」

 

・以前イサクの診察を受け恩義を感じるガソリンスタンドの夫婦。

 「先生にはお世話になったのでお金なんてとんでもない。」 

 イサク「引っ越さずにここに住み続ければよかったか・・・」

 

・まだ存命のイサク母(100歳近い?)

 孫の妻には冷たい態度をとる。

 別れ際には「まだ死んでやらないからね!」

 

とうとう授賞式の地に到着。

家政婦と息子が既に待っていた。

 

栄誉ある式の後で息子と向き合って少し話し、

穏やかな気分になったイサクが眠りにつくシーンで映画は終わる。

 

予備知識として温かなロードムービー

と思って見ると耐えられなくなる可能性高い。

 

イサクは確かに偏屈で我儘、他人に心を開こうとしないんだけど、

なぜそういう人物になったのか、ということで

これでもかとイサクのトラウマを穿り返されるシーンが続く。

 

辛いシーンが多く、暗いです(笑)

俺の人生ろくなことなかったな、空しいな。

 

死の恐怖についても、生ける屍のような母親を登場させて向き合わせている。

 

しかし、そればかりではなく、素直な少女との交流、

 

意外にも深く感謝されていた以前の患者たち、

 

冒頭よりは改善していく息子の妻との関係などに救いを見出すイサク。

ラストは一番近い息子と家政婦との絆を思わせて温かに眠りにつく。

 

人生を振り返った老教授の一日が終わった。

 

ベルリン映画祭金熊賞、ゴールデングローブ外国語映画賞などを受賞。

1962年 キネマ旬報外国語映画1位